2004年11月1日。一万円・五千円・千円のお札のデザインが新しくなりました。
福沢諭吉さんの1万円はデザインはそのままに、五千円は女性初めて登場!山梨にもゆかりの樋口一葉さん。千円は知名度バツグン野口英世さん。どんなすごい事した人かは、皆さんご存知ですよね。今回はそのお話ではなく…。逆さ富士のデザインについてです。旧五千円札に逆さ富士が描かれていますね。ところで、新千円札にも逆さ富士が描かれているのをご存知ですか?ところが、よ〜〜く見比べると、あらら?微妙に違いがあります。この二つのお札の富士山。作者が違うのでしょうか?それにしてもアングルはどうも同じように思えます。今回の取材は「旧五千円札と新千円札の富士山は違うの?」という疑問からはじまりました。
旧五千円札 新千円札

それを知るにはまず、旧五千円札について調べなきゃ…

しかし…

富士山の描かれている山の形、角度、周辺の山や湖の形から推測すると…
富士五湖周辺を知っている人なら誰でもここが精進湖ではなく本栖湖だということが分かるでしょう。でも、問題はこのアングルはどこからのものか…。もともとは写真だと思われますがどこから撮った本栖湖の逆さ富士なのでしょうか・・・?

まずは本栖湖へGo!
行ってみなけりゃ分からない。ということで、旧五千円札を片手に本栖湖畔に車を走らせて湖畔の展望台に行きました。「富士山の形は同じようだけど、どうもここではないらしい」なぜなら周りの山々がもう少し裾野の低い位置にあるように思えたのです。「湖の形も違うなぁ〜」そこで、ふと見ると展望台の少し先にある売店&民宿「浩庵」がありました。

なにか手がかりがあるのでは…

と入り口のドアを開け、白髪交じりのひげをはやしたご主人に分けを話すと、アポイントも取っていない、初めてあったナビィスタッフに快くこの富士山についての話をしてくれました。

民宿・レストラン「浩庵」 店主 赤池宏文氏

ご主人の話によると…

この旧五千円札は、写真家 岡田紅陽(1895年―1972年)の撮った本栖湖の逆さ富士の写真を基にデザインされたもの。岡田紅陽は、その生涯をかけて富士山の写真を撮り続けた富士山写真の先駆者だったそうです。常宿を精進湖や忍野村や各地にかまえ、この本栖湖に来られた時はこの「浩庵」を常宿として利用し永年に渡って富士山を撮り続けていたとの事。(そんなすごいお話が聞けるとは思わず、ナビィスタッフは身を乗り出して興奮しちゃいました。)
常宿とされていたご縁で岡田紅陽の奥様から旧五千円札のモデルになった写真(題名ー湖畔の春)をいただいたとの事。額に入れて飾られていました。





撮影: 岡田紅陽 「湖畔の春」


その上、当時の岡田紅陽本人を採った写真も拝見しました。


「浩庵」ご主人に伺った岡田紅陽との想い出
ご主人は小学校から中学校の頃の想い出があるそうです。
「麗峰富士と言われるように、『富士山は崇めるもの』という風潮の強い時代でした。けれど岡田紅陽さんは富士山の事を「富士子・・ふじこ」とまるで自分の娘か恋人のように呼んでいたことがとても印象深く記憶に残っています。ある時は『今日は富士子の機嫌が悪かったので逢う事が出来なかった」と言っては帰ってきました。富士山をとてもかわいがっていた人だと思います。また、紅陽さんは隠れた富士山を人一倍たくさん見ていた人だと思います。晴れている時の富士山よりも、隠れている富士山が顔を出す瞬間の方がとても感動的な場面に出会う事が多いからだそうです」
ご主人は、「岡田紅陽の写真は生活感があるとっても温かみのある写真で人間としてぬくもりの感じられる」そんなところがとても好きだそうです。
岡田紅陽(本名・岡田賢次郎) 
明治28年(1895年)新潟県、現在の十日町でお父さん、御祖父さん、曾御祖父さんとも
山水画の名手という芸術一家に生まれます。早稲田大学時代に、富士山の美しさに魅了され
写真を撮るようになりました。1972年に77歳で亡くなるまで富士山をこよなく愛した
富士山写真家としての一生を送りました。

さて…
ここまでのお話を伺ったとき、岡田紅陽の撮った「湖畔の春」と同じ場所から
本栖の富士を見てみたいと思いました。そこでご主人に「ポイントはどこでしょうか?」
と尋ねました。ご主人は、かなり詳しく話しをしてくれました。それは「浩庵」の隣
の小屋から裏山を登った頂上近く、いくつかある岩の一つの上で撮ったとのことでした。
いざ!するとご主人「気をつけてください。ハンターがいますから…」
うぇ? は?ハンター! ちょっと顔面から血の気が…しかしめげないぞ!  
車に積んでいた、幻の富士六湖を取材した時の長靴、軍手、帽子、(ナビィスタッフの
七つ道具の一部)また、ハンターでも人と見分けられるようにとエンジ色のジャンパーを身に
着けてスタートしました。
「浩庵」の隣の小屋から登り始めます 岩がゴロゴロこんなところを進みます
薬きょうがたくさん落ちています 山の展望台ですが、ここではありません

ご主人に伺った小屋の…
沢沿いに登ってみることにしました。今は秋も深まった11月末、時期的に枯葉がすっかり落ちていましたので、歩くルートを探すことに苦労はしませんでしたが、大きな岩がゴロゴロしていて迂回しなければならないような場所もありました。ハンターの落とした薬きょうがあちこちに落ちていました。また、なれない山登りで足を滑らせたりコケたり、足や腕に大きな擦過傷を5箇所も作ってしまいました。20分ほどで展望台らしきところがありましたが、ご主人が教えてくれた撮影箇所ではないかと言われている岩場を探しました。ほどなく歩くとそれらしい岩場に出会いました。
手前に枯れ枝があって松がある…ここだと思ったポイントを見つけました。
ところがあいにく、富士山を撮影するには相応しくない天気でした。
山の尾根という事もあり、風は強く・富士山には雲がかかり、光線の加減で富士山を明るく
撮影しにくい状態でした。
やっとポイントに… でも、こんな感じ

結局…

この日は諦めて、翌日、天気と雲の様子を見ながら、また富士山は昼間はもやがかかり
やすいため夕方近くに再び山登りに挑戦し、前日の岩の上に立つことができました。
雲一つ無い快晴でした。
それがこの岩の上…そしてここから見えた富士山が↓

「湖畔の春」と見比べてみてください。
写真の出来ではなく
周りの風景の位置を見比べてくださいね(汗)ただ写真に撮った「湖畔の春」は額の
下からの撮影なのですこし富士山が低く見えます。(もちろん年に1〜2回しか見えないと
言う逆さ富士も出てはいませんが… )また、旧五千円の富士山ともくらべて
みてください。今は秋なのでまだ富士山の頂上の雪が少ないですが、位置はほぼ間違いないの
ではと思います。これでやっと旧五千円札の富士山と出会うことができました!
…って…あれ? では新千円札の逆さ富士は?


山を降りて
新千円札については、どうやって調べようと考えました。
「そうだ!ストレートに造幣局に聞こう!」事務所に戻ってさっそく電話することにしました。
 ところが、造幣局っていうのは硬貨を作っているのだそうで、紙幣は国立印刷局が作って
 いるとのこと、知らなかったのはナビィスタッフだけ?(汗)

国立印刷局
電話に応対してくれた担当の方は、とても親切丁寧に教えてくれました。

ナビィスタッフ 旧五千円札の逆さ富士は岡田紅陽さんが本栖湖で撮影された「湖畔の春」
ですよね。
担当の方 はい、そのとおりです。ですが写真そのままではなく「湖畔の春」を
基にデザインしたものです。
ナビィスタッフ ところで、新千円札にも「逆さ富士」がデザインされていますよね。
でも、どうも少しデザインが違うように思えるのです。周りの山の
形とか、位置とか…この場所はどこからみたものでしょうか?
これは他の方の写真なのですか?
担当の方 いえいえ。新千円札の富士山のデザインも、岡田先生の「湖畔の春」を基にしてます。デザインですので微妙に違うのです。
新千円札は左下に「桜の花」をあしらってみました。
ナビィスタッフ 新千円札も岡田紅陽なんですか!それは岡田紅陽の写真が良いから
ということですか?
担当の方 そうです。岡田先生の「湖畔の春」は傑作です。こんなにすばらしい
富士山の写真はありません。ですからこの写真を使っているのです。

ナビィスタッフ2日間の取材
「新旧お札・逆さ富士の不思議」についてはこうして終了しました。
う〜〜む 人を感動させる作品を作り出すということは、ほんとに素晴らしい事だと学びました。芸術とは奥が深い!
今、急激に新デザインのお札が出回っています。来年を迎える頃にはきっと
新デザインのお札は全然珍しくないものになっていることでしょう。
もし、旧五千円札がなかなか見られなくなってきたとしても、岡田紅陽の愛した
富士山は新千円札にあり、いつまで人の手の中に、そしていつでも誰にでも
見られるわけです。このレポートを読まれた方が、時々思い出し、千円札の
「湖畔の春」を眺めてくれると嬉しいな…と思っています。



取材協力
本栖湖畔 浩庵 店主:赤池宏文氏
  (宿泊・レストラン・キャンプ・アウトドアショップ)
  〒409-3104
   山梨県南巨摩郡身延町中の倉 2926
   TEL:0556-38-0117 FAX:0556-38-0703
   URL:http://www8.plala.or.jp/kouan/
     
国立印刷局 URL:http://www.npb.go.jp/



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